シナリオ 第4章 漆黒ノ玉座

 
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チャプター 1


熱砂と水、2つの顔を持つ国ナイロ。
昼は照りつける太陽で大地は焼かれ、夜は凍える様に寒く、月光だけが妖しく砂を照らす。
過酷な大地ではあるが、人々は交易と遊牧で活気に満ちていた。
古の遺跡も数多く残り、一攫千金を狙う冒険者も多い。
今は、シェルティーに住む場所を追われ、行き場の無くなった人々が難民となっている。

テラス「アルティカと違って随分暑くなってきたね~。」

トト「南方は気温が高く暑い所だからね。」

ハムト「暑すぎるニャ。王都に帰りたいニャ~。」

アレウス「街道と呼べるものが無くなってきたな。」

ルー「砂が多くなってきましたね。」

トト「馬車だと限界かもね。次の街で砂漠に強いラクダに替えたほうがいいね。」

テラス「わーい、ラクダさんだ。」

ハムト「ナイロは襲われてるんニャろ?転送装置使ったほうがいいんじゃニャいか?」

トト「エネルギーの問題もあるけど、多分ダメだと思うよ。
   黒キ者の影響が強い場所には転送装置は使えないんだ。」

ルー「ナイロはシェルティーの攻撃によって、界蝕が進んでいます。黒キ者の影響が強いのです。」

アレウス「魔獣を地道に倒していくしかない。もちろん、ナイロの人々の力も必要だ。」

テラス「でも、人がどんどん逃げてるよ……。」

アレウス「ナイロの人口が減っているのが問題だ。人が少ないと夢や希望を抱く人間が減る。」

ルー「夢ノ国の存在は意思の力。思いを抱く人々が減っているナイロは界蝕が起こりやすくなります。
   でも、思ったより界蝕の進みは遅いようです。」

テラス「勇者様、先を急いだほうが良さそうだね!!」


チャプター 2


トト「界蝕の進みが遅いのは何か訳があるのかもしれないね。希望を抱かせる何かが……。」

ハムト「希望って何ニャ?」

トト「砂漠だけに……。」

ハムト「砂漠ニャけに?」

トト「ピラミッドパワー!!」

ハムト「ニャハハハハハ!!」

トト「そんな訳ないよねー。」

ハムト「訳ないニャハハハ。」

テラス「どうでも良い会話の時は仲良いのね。」


チャプター 3


あなた達は中央と南方の境目にある都市ラパスへとやってきた。
交易で栄えた街と言われていたが、今は中央へ逃げる難民で溢れていた。

ハムト「すっごい人なのニャ。」

アレウス「人でごった返しているな。」

ルー「逃げきれない人たちはどうなってるのでしょうか……。」

アレウス「魔獣の餌食か、界蝕に飲み込まれるか、時間の問題だな……。」

テラス「ラクダさん、買ってきたよー。」

トト「これから南方へ向かおうって人はもの好きだからね。ラクダは余ってたよ。」

ハムト「いよいよ、本格的に砂漠かニャ。過酷そうニャ。」

トト「そういえば、黄金の陽姫って人の噂を聞いたよ。」

テラス「難民を救うために現れた太陽からの使者なんだって。」

アレウス「シェルティーと戦っているのか?」

トト「そこまではわからなかった。これだけ多くの人が逃げ延びられたのも、その人のおかげかもね。」

ハムト「なんか、胡散臭いニャ。」

トト「ハムのニートのヒトに言われるとは、黄金の陽姫も可哀想に……。」

ハムト「なんニャと!!」

ルー「南に進めば正体はわかると思います。勇者様、急ぎましょう。」


チャプター 4


あなた達は砂漠を進み続ける。
昼は照りつける太陽が肌を焼き、乾燥した大気が体内の水分を奪い、水をいくら飲んでも喉が渇き続けた。
幾重にも連なる砂丘は、形を変え進む方角を見失わせた。
夜は、一転して気温が下がり、凍えるような寒さがあなたを襲う。

ハムト「勇者、水が欲しいニャ。魔獣と戦ってるほうが楽じゃニャいか?」

テラス「ハムトは、魔獣と戦ったことないじゃない。」

ハムト「残念娘は、うるさいニャ。そういえば、ガイドも雇わず、よくここまで来れたニャ。」

アレウス「本当はガイドを雇いたかったが、皆シェルティーから逃げていたからな。」

ハムト「神官命令にすれば良かったじゃニャいか。」

ルー「流石に今回は危険すぎます。」

テラス「今は、トトの千里眼の術で方角を調べてるんだよ。」

ハムト「トトも役に立つ事があるんニャなぁ。」

トト「うん、ハムのニートより役に立つよ。それより、少し急いだほうが良いかも。」

アレウス「どうした、トト?」

トト「この先で難民の一団が襲われている。マドナって街に立てこもってるみたいだけど……。」

アレウス「勇者よ。急ごう!!」


チャプター 5


あなた達の前方に魔獣に囲まれた街が見えた。
驚くべき事に、街は銀色のピラミッド状の結界で覆われ護られていた。
あなた達は結界へ取り付く魔獣と戦いはじめた。
すると、街からも武装した兵士の一団が現れ、声を上げながら、魔獣に襲いかかった。
兵士を指揮しているのは黄金に輝く仮面をかぶった女性で颯爽と白いラクダを駆けさせていた。
あなた達と兵士達の活躍によって次々と魔獣は倒されていった。

アレウス「少し数が多かったな。援軍が現れて良かった。」

イスマリダ「ありがとうございます。」

ハムト「ニャ!! 黄金仮面の女なのニャ!!」

イスマリダ「私は、イスマリダと申します。訳あって難民をまとめています。」

アレウス「あの結界術はあなたが?」

イスマリダ「はい、それは場所を変えてご説明します。とりあえず魔獣を倒しましょう。
      ピラミッドパワー、ラー!!」

ハムト「ピラミッドパワーて!!誰か仮面にも突っ込めニャ!!」

テラス「黄金の陽姫さん、すごい!!」


チャプター 6


あなた達の活躍で魔獣はすべて倒された。兵士達は勝利の雄叫びをあげる。
あなた達の驚異的な力を見て、兵士達は、口々にあなたを救世主と呼んだ。
兵士達は、あなたとイスマリダの名前を連呼しながら街へ凱旋する。
イスマリダは、街の中心にある大きな建物にあなた達を案内した。

イスマリダ「あらためてお礼を言います。この度は、ありがとうございました。」

ハムト「勇者とハムトにとってはお安い御用なのニャ。
    黄金仮面女もすごい人気なのニャ。」

イスマリダ「本当に伝説の勇者様なのですか?まさか、こちらは4神官の方々?」

ルー「はい、そうです。シェルティーを追って、ここまで来ました。」

イスマリダ「アルティカで勇者様と4神官が、シェルティーを撃退したというのは本当だったのですね。」

ハムト「ハムトもいるニャ。」

ルー「勝ったとは言えないですね。シェルティーは想像以上に強かったです。」

イスマリダ「シェルティーは勇者様に敗北した後、ナイロ全体に本格的な攻撃をしかけ、人々を連れ去りました。」

テラス「連れ去られた人たちはどうなったの?」

イスマリダ「奴隷にされて、強制労働をさせられているそうです。」

その時、またも魔獣の襲来を告げる鐘が打ち鳴らされた。

イスマリダ「また、魔獣が!?ピラミッドパワー!!ラー!!」

アレウス「勇者よ。急ごう!!」

ハムト「か、仮面の事聞いてる暇ないニャ。」


チャプター 7


ハムト「ニャア? 黄金仮面女よ?」

イスマリダ「なんでしょう?」

ハムト「ニャんで仮面かぶってるのニャ?暑くないのかニャ?」

イスマリダ「この仮面には様々な力が秘められています。結界術も、その1つです。
      かぶっていても暑くないのですよ。氷の魔法がかかっているのかもしれません。」

ハムト「便利なのニャ。ハムトにもかぶらせて欲しいのニャ。」

イスマリダ「だ、ダメです!!」

ハムト「戦闘中とは言わないニャ。プライベートで使うニャ。」

イスマリダ「だ、ダメです!!絶対ダメです!!」

ハムト「なんでニャ!!大体いつもかぶってるのおかしいニャ!!」

イスマリダ「お、おかしくありません!!ほ、ほら魔獣がまた現れましたよ。ラー!!」

ハムト「嫌だと言われると、余計に欲しくなるのニャ。
    ニャフフフフフ……。」


チャプター 8


アレウス「イスマリダ殿。あなたの結界術は、どこで学んだのですか?」

イスマリダ「これは私の力ではありません。この仮面の力です。
      この黄金の仮面は古代ナイロの王家の秘宝です。」

アレウス「なるほど。結界術の魔法がかけられているのだな。」

イスマリダ「はっきりとはわかりません。結界術と言っても、アレウス様ほどのものではありません。」

アレウス「まず、アレウス様は止めてくれ。私たちは神官と呼ばれているが、神でも何でもない。
     結界術も生まれ持って出来る事だ。自分で努力して身につけた訳ではない。出来る事をしているだけだよ。
     あなたも、そうではないかな?」

イスマリダ「…………。」


チャプター 9


ルー「マナドの街に難民が集まるせいか、魔獣がひっきりなしに襲ってきますね。」

イスマリダ「伝説の勇者と、4神官がいると聞けば人々が救いを求めて集まるのは当然です。」

テラス「”黄金の陽姫イスマリダ”もすっごい人気だよね!!」

イスマリダ「皆、何か勘違いしているのです。」

トト「そんな事ないよー。実際、イスマリダさんはみんなを上手くまとめている。」

テラス「みんながすっごい美人だって言ってたよ。どうして仮面を被りっぱなしなの?」

イスマリダ「そ、それは……。いつでも結界を張れるようにです。」

トト「シェルティーとの戦いが終わったら、仮面を調べさせて欲しいんだよねー。
   王家の歴史や仮面を誰が作ったのかとか色々知りたいんだよー。」

イスマリダ「別の仮面をいただければ、お渡ししても良いですよ。」

テラス「いつもかぶってる必要はないの?」

トト「ボクは調べられれば何だっていいんだけどね。」

イスマリダ「気にならないのですか?」

テラス「外したくない理由があるんでしょ。人が嫌がる事はしないよ。」

トト「結界術が気になるならアレウス兄さんもいるから無理しないでねー。」

イスマリダ「ありがとうございます。理由はいずれお話しします。面白い話でもないのですが。」

ルー「みんな、そろそろ食事にしましょう。」

テラス「お腹減った~。」

イスマリダ「行きましょう。」

ハムト「ハムトは、そんなに甘いニャハムートではないニャ。勇者ならわかるはずニャ。」


チャプター 10


あなたは、魔獣の襲撃をまたも退けた。
しかし、兵士達には勝利の喜びよりも動揺が走っていた。
遠くの空に黒い影の揺らめきが現れた。蜃気楼と誰かが呟く。影は次第にはっきりした形をとり始めた。
それは影ではなく黒く巨大な四角錘の建造物であった。
あなたの頭に交心術が響く、テラスではない。この声は……。

シェルティー「久しぶりだニャ。勇者。のこのこ殺されにきたのかニャ。」

テラス「なんで!?シェルティーは私と同じ交心術が使えるの?」

周りの兵士達は頭を抑え、うめいている。無防備になった彼等に魔獣が襲いかかろうとしている。


チャプター 11


アレウス「これは危険だ。勇者よ。兵士たちを街へ逃がすんだ。私は結界を張る。」

シェルティー「あたしは、ナイロを虚無の水面に沈めたい訳じゃニャい。
       この黒いピラミッド”漆黒ノ玉座”に黒キ王を迎えるのニャ。ナイロを黒キ王の王都にするのニャ。
       それには、もっと人が必要ニャ。こいつらをもらっていくニャ。」

突然砂嵐が巻き起こり、中から魔獣が現れた。
魔獣は逃げ遅れた兵士をさらおうと、唸り声を上げながら近づいて行く。

イスマリダ「勇者様。兵士たちを助けてください。」


チャプター 12


シェルティー「ふん、魔獣を倒したからと言っていい気になるニャ。ナイロの民は全て奴隷にしてやるニャ。
       いくらお前達でもナイロ全てを護れはしないニャ。
       ニャハハハハハハハ!!」

シェルティーの高笑いは、次第に遠くなっていった。

ルー「どうやら、術を解いたようですね。」

ハムト「(あいつ怖いので黙ってたニャ。怒らせたら殺されるニャ。)」

イスマリダ「なんて酷い……。私は奴隷になった民を、助けたいと思っています。
      しかし、私だけでは無理です。皆さんのお力を貸してください。」

アレウス「一度、街へ戻って対策を練ろう。」

トト「そうだね。交心術を使うのも気になるし。」

テラス「私と同じ術だったよ。交心術で酷いことするの、許せないよ。」


チャプター 13


あなた達は街へ戻り対策を練る事になった。

トト「シェルティーは、漆黒ノ玉座を作って、ナイロに拠点を作る気だね。」

アレウス「虚無の水面に沈めるのが目的ではないようだ。」

トト「人を集めている理由は、負の感情の力を集めるためだね。」

テラス「シェルティーの交心術は洗脳効果があるみたい。」

ルー「テラスの交心術で妨害することは出来る?」

テラス「試したことないけど、出来るよ。」

ハムト「残念娘もそんな凄い事出来るのかニャ!!」

トト「ハムのヒト。テラスは多分、4神官の中で一番強いよ。」

ハムト「(これからは残念娘を、怒らせないように気をつけるニャ。ビビってはいないのニャ。)」

アレウス「交心術は人の精神に作用する。術を使う時に、集中を乱されれば私も結界術を使えない。
     テラスには、それが出来るのだ。
     ここを拠点に地道に漆黒ノ玉座に向かうしかないな。
     イスマリダも、私と同じように結界術が使える。」

ルー「結界のオーブを作って、設置しながら進むのね。設置に最適な場所はあるかしら?」

イスマリダ「ナイロには古い遺跡がたくさんあります。そこを使ってはどうでしょう。」

トト「古代ナイロには、いくつもの国があったと言われている。
   古の伝承、伝説。そういう歴史のあるものは夢ノ国だと力持つんだ。」

ルー「勇者様、遺跡を回ってオーブを設置しましょう。」

トト「難民はボクの千里眼の術とテラスの交心術で助けよう。」

テラス「うん、テラス頑張るよ!!」


チャプター 14


青い月の光が、砂の大地に冷気を送リ込む。
夜の砂漠は、昼とは別の顔を見せるのだ。

ハムト「暑かったり、寒かったり大変なのニャ。」

トト「ここの生活は、魔獣より危険かもね。」

テラス「この周りには、人はいないみたい。疲れた……。」

ルー「テラスは少し休んだほうがいいわね。交心術をずっと使ってるし。」

テラス「うん、そうする……。」

トト「ボクも休むよ。砂漠に慣れた人が協力してくれるから、ずいぶん楽になったけどねー。
   砂漠の旅は予想以上に厳しいよ。良い経験だけど。」

アレウス「移動しながら難民を救出するのは大変だな。」

イスマリダ「少しずつですが、街を解放出来ています。
      みなさんのおかげで、希望が見えて来ました。」


チャプター 15


砂漠の旅は続く。
街に収容出来ない難民は、連れて歩かなければならなかった。
水や食糧の確保もままならず、旅は困難を極めた。
途中で見つかるオアシスや川の周辺にキャンプを張り、難民を休ませた。
イスマリダは極力疲労を見せず、難民をよくまとめていた。

ハムト「おーい、黄金仮面女。」

イスマリダ「はい、なんでしょう。」

ハムト「お疲れなのニャ~。」

イスマリダ「あ、はい。お疲れ様です。」

ハムト「その仮面、脱いだほうが楽じゃニャいか?」

イスマリダ「急に敵が襲ってきたら大変ですから。」

ハムト「遠慮するニャ。とおー!!」

イスマリダ「あ、やめ、止めてください!!」

ハムトは、普段からは想像できない俊敏さで、イスマリダの仮面に飛びついた。

ハムト「とったどーニャー!!」

イスマリダ「……。」

テラス「あれ? 仮面脱いでる?イスマリダさんすっごい美人!!仮面かぶってるの勿体無いよ!!」

イスマリダ「いやあああああああ!!」

イスマリダは、ハムトを上回る速さで仮面を奪い返すと、素早くかぶり直した。

イスマリダ「王家の力を知りなさい、ラー!!」

黄金の仮面が太陽の光を吸収し、眩く輝くと目から熱線を発射した。
ハムトは一瞬にして光に飲み込まれた。

ハムト「ギニャーーーー!!あっつ、あっついニャ!!洒落にならないニャ!!」

トト「おお、あれは王族が暗殺者から身を守るために使ったという熱線。」

テラス「知っているの、トト!?」

トト「その名も太陽の瞳!!」

ハムト「お前、解説したいだけニャろ~!!」

イスマリダは、悲鳴を上げながら、その場から走り去った。

アレウス「何かあったのか?」


チャプター 16


イスマリダ「みなさん、お騒がせしてすみません。」

トト「いえいえ、うちのハムのニートがご迷惑をかけました。」

ハムト「太陽ビーム撃つ事ないニャ。」

イスマリダ「取り乱してしまいました。」

ルー「何故、仮面をかぶり続けていたのですか?」

イスマリダ「私の家系は、古の王家の末裔です。
      王家の末裔と言っても、今は普通の職人で織物で生計を立てていました。
      この仮面は代々家に家宝として伝わっていたものです。」

ルー「その仮面には色々な力が封じられていますね。」

トト「おそらく王家が自分達を護るために作ったんだろう。」

イスマリダ「魔獣が私たちの街へ来た時に、この仮面の力で結界を張ったのです。正確には自動的に結界が発動しました。
      それ以来、奇跡を起こすという事で、指導者に祭り上げられてしまって……。」

トト「それだけ美人で頭も良ければカリスマ的存在になるよね。」

イスマリダ「それはわかりません。私は仮面の力が使えるだけです。
      おかしな呼び名も付けられてしまって……。」

ハムト「黄金の陽姫かニャ?」

イスマリダ「いえ、はじめは、び、美人すぎる女王と……。」

ハムト「ニャッハッハハッハ!!なんニャ。それ黄金の陽姫より、可笑しいニャー。」

テラス「イスマリダさんは本当に悩んでいるんだよ。美人すぎるっていうのも大変なんだね。」

イスマリダ「なんだか、顔を出すのが、怖くなってしまったので仮面をかぶり続けるようになりました。
      仮面をかぶって、おかしな行動をすれば、妙な期待はかけられないかと。」

トト「逆効果だね。かえって神秘性が増したよ。」

イスマリダ「そうなんでしょうか。派手な衣装でおかしさを強調したのですが。」

ハムト「むしろインパクトが増したニャ。」

テラス「イスマリダさんには天性の何かがあるんだよ。カラスミなんだよ。」

トト「それを言うならカリスマだね。」

イスマリダ「ナイロを救うと言っていますが、私は元の生活に戻りたいだけなのです。」

ハムト「ふつーの女の子に戻りたいってやつニャ。」

アレウス「砂漠は広い。私の結界術だけでは全ての人々を救うのは難しい。」

イスマリダ「それはわかっています。私も、家族がさらわれているのです。
      勇者様、お願いです。どうかシェルティーを倒してください。」


チャプター 17


イスマリダ「勇者様、私は偶然、古の王家の力が使えるだけです。
      私は、みなさんの前では、割と自然に振る舞えるようになりました。
      でも、勇者様がシェルティーを倒した後、私はどうすればいいのでしょうか。指導者になるなんて考えられません。
      私は、幼い頃から、よくこの仮面をかぶっていました。
      仮面をかぶっている時は、別の自分になれた気がするのです。
      私は機織りの仕事が好きでしたし、王家の血筋に興味はありませんでした。
      私の家族は、両親と祖母、祖父と2人の弟の、6人です。
      祖父と父は、古の王家の血筋を重んじる人でした。
      祖母と母は優しかった。弟たちは騒がしいけど、良い子です。
      私は、昔に戻りたいだけなんですよ……。
      勇者様と4神官の方々を見ていると、家族が懐かしくなるのです。
      あ、もちろんハムトさんもです。
      家族と一緒にいると、嫌な事もありますけど、一番身近な仲間でもあります。
      幸運な事に、私は家族に恵まれました。
      何としても家族を取り返したいのです。みんなのため、と言いながら、自分の事ばかりですが……。
      力を貸してください。」


チャプター 18


地平線に禍々しい黒い影が浮かんだ。漆黒ノ玉座だ。
漆黒ノ玉座は日増しに巨大になっていく様に思えた。
表面は光を反射する事なく、遠目に見ると砂漠にぽっかりと空いた穴のようだ。
あなた達は難民を解放し、戦える人間を集めていった。決戦の時は近い。

イスマリダ「とうとう、ここまで来てしまいました。」

トト「勇者のヒトの後ろ盾もあったせいで、民衆の心を掴んだね。」

テラス「さっすがカラスミだよ。」

ハムト「カリスマニャ。残念娘。」

イスマリダ「でも、私の命令で、兵士の生命が失われるのだけは、慣れません。」

アレウス「では、辞めても良い。」

イスマリダ「そんな……。」

テラス「そんな、アレウス兄様。そんな言い方ないでしょう。」

アレウス「ん? 不愉快な言い方だったか。私はあまり上手い言い方が出来ないのだ。」

ルー「アレウスは、無理に責任を負う必要はない、と言いたいのです。
   誰かに悪いと思うから続けるというのも良いでしょう。
   それで、イスマリダさん自身が傷ついたら意味がありません。
   耐えられなければ、無理に続けなくても良いのです。」

テラス「うーん、そうだね。イスマリダさんが辛いなら、後はテラスたちで何とかするよ。」

トト「そうそう、本当は勇者のヒトとボクらだけだったんだから。」

アレウス「神官は、役割を捨てる事が出来ない。君には決める自由がある。それを忘れないでくれ。
     この戦いに貴方がいてくれると、助かるのは事実だ。出来れば一緒に戦って欲しい。」

イスマリダ「ありがとうございます。今は家族を取り戻すために戦います。平和なナイロに戻って欲しいのです。
      後の事は、その時に決めます。」

ハムト「そうニャ。人生なるようになるのニャ。」

トト「ハムのヒトが言うと、まったく説得力ないね。」

テラス「そうね。」


チャプター 19


漆黒ノ玉座の材料は界蝕から生み出されていた。
人々の負の感情を巨大な石として、界蝕から吐き出させていたのだ。
人々は、虚ろな目で石を運び続けていた。
突然、あなたの前の空間が切り裂かれ、シェルティーが現れた。

シェルティー「ニャンバンワー。勇者、ご苦労だニャ。
       漆黒ノ玉座は、もうすぐ完成ニャ。
       そうすれば、ナイロは黒キ王の世界に染まるニャ。
       奴隷共の事は心配するニャ。あとで魔獣に変えてやるニャ。」

イスマリダ「そんな事はさせません。」

シェルティー「お前が噂の黄金の陽姫かニャ。直に会うのは、はじめてだニャ。
       ピラミッドパワーニャんてふざけた術で、こうまで妨害されるとは思わなかったニャ。
       まぁ、いいニャ。お前の家族共々、きっちり殺してやるから安心しろニャ。
       派手派手な仮面はあたしのコレクションにしてるニャ。」

ハムト「…………。」

シェルティー「そいでもってネコ。お前ビビってるんじゃないかニャ?」

ハムト「び、びびってなんておらへんでニャ。(ぞぞぞー)」

シェルティー「お前のパーカーもきっちりもらってやるからニャ。
       まぁ、ビビって逃げてもいいがニャ。ニャーッハッハッハハ。」

ハムト「なんニャ。はじめに現れる四天王的なのは最弱ニャ。
    お前、勇者に負けてたニャ。勇者、ボッコボコにしてやるニャ!!」

シェルティー「おい、勇者。あたしは漆黒ノ玉座の最上階で待ってるニャ。
       今度は本気の全力ニャ。お前の死体は黒キ王への貢物ニャ。では、バイニャら。」

シェルティーは、先程切り裂いた空間へ飛び込み、帰っていった。

イスマリダ「間近で見ると、圧倒されますね。外見は子供みたいなのに……。」

ルー「ええ、南蛮シェルティー……。恐ろしい相手です。」


チャプター 20


トト「勇者のヒト。1つ困った事があるんだ。」

ハムト「なんニャ。あの凶暴なネコ以外に、何が困るっていうニャ。」

トト「このままだと、奴隷にされている人たちが、戦いに巻き込まれる。
   というか、シェルティーは、あの交心術で奴隷を操って、こっちにけしかけてくるね。」

ルー「トト、そんなこと出来るの?」

トト「洗脳効果があるみたいだから、十中八九そうするね。」

アレウス「同士討ちをさせようと言うのだな。」

トト「ボクならそうするから。奴隷を操らなくても兵士の動きを鈍らせるぐらいするよ。」

ハムト「お前割と怖い事考える奴なのニャ。」

トト「これは戦いだからね。」

テラス「私、妨害出来ないかな。私の交心術でビビーっと!!」

トト「実は、そう言うのを待っていたんだよ。シェルティーの術とテラスの術は似ているからね。」

テラス「何で似てるかわからないけど、やってみるよ。シェルティー嫌いだし。
    私、戦うの好きじゃないけど、シェルティーをやっつけてイスマリダさんの家族を取り戻そう!!」

イスマリダ「みなさん、ありがとうございます。」


チャプター 21


シェルティーは漆黒ノ玉座の頂上から、あなた達を見下ろしていた。
頂上には黒い玉座が置かれていた。黒キ者を迎えるためのものであろう。

シェルティー「もうすぐ戦争ニャ。ウォーニャ。
       あたしの交侵術で、兵士と奴隷を同士討ちさせてやるニャ。
       せいぜい苦しむがいいニャ。味方同士で殺し合いニャ。それじゃ、やってやるニャ。」

シェルティーが交侵術に集中すると、奴隷達は一斉に作業を止めた。
奴隷達は、死者の群れのように、ゆっくりと兵士たちの方へ向かう。
異変に気付いた兵士たちに、動揺が走る。

テラス「みんな、正気に戻って。ナイロの生活を思い出して……。」

シェルティー「あたしの邪魔をするのは誰ニャ。
       な、なに!?一番役に立たなそうなガキじゃニャイか!!」

テラス「役に立たないって何よ!!」

シェルティー「く……。こんな奴があたしの交侵術と互角なんて……。」

テラス「やっぱり、力は同じくらいみたいだね。でも……。交心術にみんなの思いを乗せれば……。」

ルー「私も力も貸します。」

アレウス「私もだ。シ凶の好き勝手にはさせない。」

トト「ボクも。勝たないと仮面が調べられないしね。」

イスマリダ「私も。家族とナイロのために。」

ハムト「神官では一番の小物と言われたテラスも、みんなの力を集めれば強いのニャ。」

テラス「ハムトは一言多いんだよ!!イスマリダさん、早く。」

イスマリダ「みなさん、聞いてください。
      ナイロは、砂で覆われた過酷な大地です。
      でも、ここは私たちの故郷です。私たちの家族と故郷を取り戻しましょう。
      南蛮シェルティーを倒し、私たちの太陽を取り戻しましょう。」

イスマリダの呼びかけで、奴隷たちは正気を取り戻しはじめた。
気絶する者や、わずかに動きを止めただけの者もいるが、隙を作るにはそれで充分だった。

テラス「勇者様、道が開けたよ。」

ルー「今です。漆黒ノ玉座を登ってください。」


チャプター 22


シェルティー「勇者、お前とあたしのタイマン勝負ニャ。
       黒キ王も全力を出していいと言ったニャ。
       お前を殺して、残った奴等もあたし1人で殺し尽くしてやるニャ。
       勇者、早く登ってこいニャ!!」


チャプター 23


あなたの止めの一撃を受け、シェルティーは宙に吹き飛ばされた。
シェルティーは、受身を取ろうと、猫のように体を翻すが、無様に地面へと叩き付けられた。

シェルティー「この間より遥かに強い……。」

シェルティーはよろめきながら立ち上がった。
しかし、立っている事が出来ず、玉座にもたれかかった。
4神官とイスマリダも魔獣を蹴散らし、あなたの下へ駆けつけた。

アレウス「ルー、封印術を。今なら弱っているからかかるはずだ。」

ルー「わかったわ。」

シェルティー「殺せ。」

ルー「殺しません。私達は殺生を好みません。あなたには聞きたいこともありますから。」

不意に、風が止んだ。張り詰めた空気が辺りを包む。
何の前触れもなしに、不気味で乾いた笑い声が響く。

黒キ者「アッアッハッハァヒィ。よう、勇者。はじめましてかな?
    それともまた会ったかな?」

アレウス「黒キ者!?貴様、本当に黒キ者か!!」

誰も、その男に気付かなかった。
黒キ者は、玉座に座っていたのだ。はじめからその場にいたかのように……。

アレウス「黒キ者、この場で倒す!!」

アレウスは、一瞬で、黒キ者の周りを結界術で覆い、稲妻の様な速さで剣を抜き斬りかかった。

黒キ者「アッアッハッハァヒィ。」

黒キ者は、アレウスの結界術を難なく破ると、剣を二本の指で挟み取った。
挟み取られた剣は、一瞬で錆びて崩れ去った。

黒キ者「アレウス君は、相変わらず血の気が多いねぇ。アッアッハッハァヒィ。
    俺が来たのは、他でもない。南蛮ちゃんを回収に来た。」

シェルティー「く、黒キ王……。」

黒キ者「うーん、実に良いねぇ。勇者、もっと強くなれ。
    俺とお前の戦いで、世界を混沌に落としてやろう。アッアッアッハァ!!
    お前の勝利で、世界中に希望を振りまけ。俺は、その度に世界へ絶望をプレゼント。アッアッアッアッアッ。」

黒キ者の頭上に巨大な界蝕が発生した。
黒キ者とシェルティーはゆっくりと、その中に消えていった。
誰も動ける者はいなかった。黒キ者が去るのを、黙って見ている事しか出来なかった。

トト「あれが黒キ者。想像以上だ。何も出来なかったよ。」

テラス「シェルティーにも逃げられちゃったね。」

ルー「当面の危機は去ったと、考えていいのかしら……。」

イスマリダ「今は、目の前の人々を助けましょう。」

ハムト「(あいつは飛び切りヤバイニャ。そういう時は黙るニャ。空気になるニャ)」

あなた達はシェルティーに勝利し、ナイロの危機は去った。
しかし、黒キ者の出現は、新たな脅威を予感させた。
そして、あなた達はナイロの復興を、手伝う事になった。
残った魔獣を倒し、人々を故郷に戻さなくてはならない。
それは大変な労力であったが、皆、黙々と働いた。
黒キ者への恐怖を振り払うかのように。
すべてが元通りになるには長い時間がかかりそうだった。
しかし、あなたには次の冒険が待っている。

イスマリダ「勇者様、魔獣退治お疲れ様でした。」

ハムト「あ、仮面してないニャ。」

イスマリダ「最近は仮面がなくても、人前に出れるようになりました。
      勇者様のおかげで、家族と再び会えました。」

トト「あー、イスマリダさん来てたんだ。」

ハムト「トト、しばらく見ないと思ってたけど、何をしてたのニャ?」

トト「人々を故郷に送り返してたんだ。王都の転送装置をフル稼働させてね。
   ハムのヒトは、ここでぐーたらしてたんでしょ。」

ハムト「ニャ!?ハムトは勇者のサポートニャ。最強の相棒だからニャ。」

テラス「生き別れになった人は、大体連絡が取れたよ~。」

イスマリダ「テラスさんは、ずっと交心術を使ってたんですか?」

テラス「はぐれたペットも全部見つけたよ~。」

ハムト「(こいつ何気に凄いんだよニャ。言わないけど)」

アレウス「すべてのナイロの街に、結界を置くことが出来たぞ。」

ハムト「どうやったのニャ?」

アレウス「人々が転送される時に、一緒についていったんだ。」

ハムト「全部かニャ。」

アレウス「当然だ。一部の難民は生活が安定するまで王都に移している。」

ルー「私も手伝いました。イスマリダさんのほうが大変なのでは?」

テラス「そうそう、交心術でみんな話してたよ。ナイロの女王になってもらうんだって。」

イスマリダ「ええ、みなさん勝手ですよね。ナイロにはまとめる人が必要なのは、事実ではあります。
      ほんの少しだけ頑張ってみます。止める事はいつでも出来ますからね。
      みなさんは、これから旅に出るんですか?」

ルー「西にもシ凶が現れたようなのです……。」

イスマリダ「そう思ったので、食糧、水、ラクダを用意してあります。」

テラス「さっすがカラスミ女王だよ。気が利くよ!!」

イスマリダ「立場を上手く利用しました。狡いですかね。」

トト「イスマリダさんは良い指導者になる気がするよ。」

テラス「美人すぎるカラスミ政治家だね。」

ハムト「黄金仮面女はしたたかになったニャ。」

イスマリダ「仮面を上手く使っていきますよ。ウフフ。」

ハムト「(とんでもない女に知恵を付けてしまったかもしれないニャ)」

イスマリダ「勇者様、また会いましょう。」

西に沈むナイロの太陽は、血の様に赤い。
それは不吉なものではなく、生命の血潮を感じさせる。
ナイロの太陽を追うように、あなたは進む。乾いた風を受けながら。
向かうは西方。荒野と開拓者たちの楽園。

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